取材レポート

雲雀丘学園小学校

敷地内にビオトープ+田んぼ「ひばりの里」が誕生。自然にふれる活動を通して、自己肯定感を育む

阪急雲雀丘花屋敷駅から学園専用通路を通り徒歩3分と、非常にアクセス至便ながら豊かな自然に囲まれている雲雀丘学園。同学園は2020年に創立70周年を迎え、それを記念して「道しるべ」や「The Will House」の建設など、様々な事業を実施しました。その記念事業のひとつとして生まれた「ひばりの里」。その学びについて、理科教員の天井比呂先生にお話を伺いました。

雲雀丘学園小学校 理科教員 天井比呂先生のお話
子ども達や保護者有志の手で作られた自然について学ぶ場
田植えから米の収穫・脱穀までを手作業で行う
絶滅危惧種も発見! 里山の多様な自然からの学びく
実体験を大切に進める理科教育
まとめ
理科教員 天井比呂先生

理科教員 天井比呂先生

雲雀丘学園小学校 理科教員 天井比呂先生のお話

子ども達や保護者有志の手で作られた自然について学ぶ場

2020年に創立70周年を迎えた雲雀丘学園。それを記念し、2018年に「里地里山いのちの環プロジェクト」が立ち上げられました。このプロジェクトは、幼稚園脇にある涸れ池をビオトープと田んぼに作りかえるというもの。天井先生は「まずは子ども達が自由に活動し人間性豊かな「ひばりっこ」の育成できること、そして自然に触れながらその大切さやSDGsについて学び、貢献できること。この2つを叶える場所を作ろうと計画をスタートしました」と語ります。

このプロジェクトの特筆すべき点は、作りかえの作業を業者ではなく、学園に関わる人達の手で行ったこと。作業時には、学園に通う幼稚園から高校生に加え、その保護者の有志が200名以上集まったそうです。

他に類を見ない手作りのビオトープと田んぼは「ひばりの里」と名付けられ、子ども達の学びにつながる様々な活動が行われる場となりました。

田植えから米の収穫・脱穀までを手作業で行う

「ひばりの里」での活動は低学年が主で、1・2年生はいろいろな遊びや生き物・植物の観察を、3年生では米作りを体験します。

「3年生では田植えから米の収穫、脱穀までを行います。田んぼができて1年目はコロナがあり、希望者だけで田植えを行いました。しかし水害が起こり、田んぼが水浸しになってしまったため、残念ながら収穫はゼロでした。2年目は3年生全員で田植えができましたが、今度は外来種の浮き草の大量発生やスズメもやってきて、ほんの少しの収穫しか得られませんでした。3年目の2022年度は多くの収穫が得られたのですが、最後にカメムシがやってきました。カメムシが米の汁を吸うので、できたお米に黒い斑点がたくさん付いてしまったんですね。それでも22.7kgの収穫があり、玄米を学校で炊いて、皆で食べることができました」。

天井先生の言葉からは、米の収穫に至るまでの困難が伝わってきます。このような自然の厳しさに加え、実際に米作りの作業を経験することで、様々なことを子ども達は学んだと天井先生は続けます。

「田植えをするのは5月末から6月はじめですが、それでもとても暑い。その暑い中、実際に田んぼでかがんで田植えをします。田植えの後も合間に草抜きもしないといけません。実ったら鎌を使って稲刈りをして、千歯扱きで脱穀する。農作業自体の大変さはもちろん、お米を作るのにこれだけ色々なことをやる必要があるのだと子ども達は知ることができました」。

これらの経験を通して、子ども達に大きな変化が見られたといいます。

「まずは食べ物を非常に大切にするようになりました。2年目であれば、頑張ったのに一人あたりスプーン何杯くらいのお米しか取れませんでしたから、その大事さが分かったようです。次に自分はがんばれるんだという気持ちが、子ども達から少しずつ出てきたとも感じています。実際、自己肯定感を調べる外部調査でも以前より高くなったという結果が出ました」。

米作りを通して、子ども達は多くのものを得ているようです。 

天井先生は、「『ひばりの里』は湧き水を利用しているので、水がうまく循環するように維持するのが難しい。ほか浮き草やカメムシなど、毎年毎年難題が降りかかりますが、いろいろ試しながら進めています。今年はうまくいくよう祈っています」と笑顔を見せます。
田植え

田植え

収穫

収穫

脱穀

脱穀

絶滅危惧種も発見! 里山の多様な自然からの学び

「ひばりの里」では、日本古来の里山の環境を再現しようと外来種は可能な限り除去するなどしています。そんな中、絶滅危惧種である生き物たちが発見されるようになりました。

天井先生は「2年目には絶滅危惧種のモリアオガエルやシュレーゲルアオガエルの卵が発見されました。どこかからカエルを持ち込んだわけではないので、元々近隣に生息していたのだとは思いますが、とてもびっくりしましたね。カエルたちが産卵しに来るぐらい良い環境なのだと嬉しく思いました。他の絶滅危惧種や植物の在来種も増えてきています」と説明します。

数年後には、中高校の科学クラブがこの地域のホタルを「ひばりの里」で復活させようと活動を行っているそうです。

「近くの川から餌になるカワニナを採集し、ホタルを捕まえてきて繁殖させ、幼稚園のビオトープに放す計画が進行中です。そこで繁殖できたら、それが『ひばりの里』の方にも飛んできてくれるのではないか、将来的にホタルの鑑賞会ができたらと期待しています」と天井先生。

1・2年生の間はこのような恵まれた環境に足繁く通い、いろんな花や実、昆虫を探したり、落ち葉集めをしたりと自然探しを楽しみます。子どもが自然に触れる機会が昔に比べ格段に少なくなった今、昆虫を怖がる子も増えたといわれていますが、同校では「ひばりの里」での活動があるおかげで、昆虫に興味を持つ子が多くなったのだとか。

「2年生では3年生での米作りに向けて、泥慣れするために田んぼの代掻きをします。代掻きとは田んぼに水を入れた状態で、土の塊を細かく砕く作業のこと。本校では子ども達に足で踏んでもらっています。代掻きの最中に見つけた生物を田んぼの外に逃がしてあげる姿もよく見られます。虫を触ることに抵抗がなくなってきたことや虫に興味を持つようになったことは大きな収穫だと思います」。

天井先生は今後の「ひばりの里」での学びについて、以下のように話します。

「今も『ひばりの里』での経験を通して、生物の多様性について学習したり、学んだことを自分なりに新聞にまとめたりしていますが、今後はより自分が不思議だと思うことを自分で考えながら探究的に調べることまでできるよう進めていきたいと考えています」。
代掻き

代掻き

実体験を大切に進める理科教育

雲雀丘学園小学校の理科では、「ひばりの里」での活動以外でも、実験や実物を見たり触ったりすることを大切に進めているそうです。

「やはり実物を見て、自分の手を使って学ぶことで、子ども達の理解度が深まります」と天井先生。そのため、例えば顕微鏡も1人1台、双眼実体顕微鏡も2人に1台を揃えるなど、実験や観察を個人でできる設備を整えているのだとか。

天井先生は「今日の5年生は、花粉を観察しました。顕微鏡も何度も使っているので、子ども達も慣れたもの。自分達ではっきりと見えるように調整して、スケッチしていましたね。『朝顔はあんなに花はキレイなのに、花粉はなぜギザギザがいっぱい付いているのかなあ?』などと言っていました。やはり実物を見ることで、興味が湧くようです」と語ります。

このように実体験を大切にする教育を続けてきた同校。その教育が「ひばりの里」という自然の多様性を感じられる空間を得て、より充実していく様子が目に浮かびます。

まとめ

雲雀丘学園で教育を進める上で大切にしている「やってみなはれ」精神。これは同学園の初代理事長でありサントリーの創始者でもある鳥井信治郎氏の口ぐせ「やってみなはれ。やらなわかりまへんで」に由来しているそうです。

この「やってみなはれ」精神のもと、「ひばりの里」でも幼稚園児から中高生までが様々な難題に一生懸命取り組んでいます。挑戦することの大切さを言葉で説かれるだけではなく、多くの人の姿から肌で感じられることも、「ひばりの里」から得られる学びのひとつではないでしょうか。

子ども達の心を耕し、大きな実りを与えてくれるたくさんの学びが「ひばりの里」にあることを、今回の取材を通して感じました。

取材協力

雲雀丘学園小学校

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